セルフサービスBIは実現できるのか。セルフサービスBIの利点とこれまでの懸念点

セルフサービス分析と呼ぶか、セルフサービスビジネスインテリジェンス(BI)と呼ぶかに関係なく、セルフサービス機能の構築に関する危険性、作り話、見込み、将来性などについては、これまで大いに議論されてきました。ここからは「セルフサービスBI」という表現を使いますが、「セルフサービス分析」と自由に置き換えていただいて構いません。

セルフサービスBIは実現できるのでしょうか。それとも、ただの作り話でしょうか。実現できる場合、セルフサービスBIの実現に向けた努力を必ず成功に結び付けるために、理解すべきことは何でしょうか。この記事では、セルフサービスBIの主な利点と、最大の懸念点をいくつか説明します。また、セルフサービスBIプログラムの構築を成功させるために何をすべきかについても共有します。

セルフサービスBIとは

セルフサービスBIは業務上の機能で、ITチームやBIの専門家、SQLなどに頼らなくても、ビジネスユーザー自身がデータに関する質問やインサイトの入手、データ分析を実行できる機能です。それでは、少し細かく見ていきましょう。

  • セルフサービスBIは、連続したプロセスを伴う業務上の機能で、事業のステークホルダーが所有します。運用上の決定を日常的に下す必要のあるデータのビジネスユーザーに焦点を絞っていることに留意してください。

  • 機能を利用するのに技術的な専門知識は必要ありませんが、ビジネスユーザーは自身の知識と専門的意見をもとに、次に尋ねるべき問いは何か、答えに基づいた対応は何かなどを理解します。

終わりのない作業サイクル

エンジニアやアナリストの多くは、私が「終わりのない作業サイクル」と呼んでいる、データ分析作業にありがちなリクエストに心当たりがあるでしょう。ステークホルダーは、ダッシュボードや質問への回答をリクエストした後で、システムに該当データが存在しないと気付きます。データエンジニアリングには該当データの取り込み・保護・管理が必要なため、アナリストがダッシュボードを拡張しなければなりません。これでは、次の質問の回答を出すためにリクエストを改善しているに過ぎません。

このアプローチは事業に価値を提供し、データチームに存在意義を感じさせるかもしれませんが、問題は規模です。このプロセスは、小規模な会社であっても拡張できません。企業は、保有データを直観的に利用して事業運営に注力するために、運営の可視化を求めています。圧倒的多数のアナリストが、平凡でおもしろみのないデータや退屈なデータの抽出ではなく、事業に価値をもたらすインサイトを提供したいと考えています。  

データ量が増え続ける中、企業の経営陣はさらに多くのインサイトを求めています。また、新たな疑問はそれぞれ別の疑問を生みます。すると、データチームへのデータのリクエストがますます発生しますが、この状態は持続できません。そこで、セルフサービスBIの出番です。バックログを減らし、データエンジニア、アナリスト、ビジネスユーザーを終わりのない作業サイクルとダッシュボードに関する混乱から解放します。

セルフサービスBIの利点とこれまでの懸念点

セルフサービスBIの大きな利点をいくつか挙げながら、関連する主要な懸念点を見ていきましょう。その後で、セルフサービスBIの機能を構築する際に考慮すべき点をいくつか説明します。

BIの機能を拡大

セルフサービスBIを使うと、ビジネスインテリジェンス機能の拡大に関する問題が解消されます。ユーザーは自分の問いに対する答えを見つけること、次の問いを投げかけること、自社のインサイトを入手すること、対応することなどができるようになるので、以下のような大きな利点がもたらされます。

  • ビジネスユーザーの能力を高める。

  • データチームのバックログを減らして、チームが事業上の複雑な問題に注力できるようになる。

  • 組織内にある既存のセキュリティーポリシーやガバナンスポリシーを活用する。

これまでの懸念点:そのようなタスクを担当するスキルがない、または意欲すらないビジネスユーザーでも対応できるようにすることで、セルフサービスBIの価値が下がる恐れがあります。

ライセンス、開発、運用にかかる費用を削減

多くの場合、費用削減のチャンスを特定して実際に削減することは、新しいプログラムや計画について経営陣から支援を受けるための大切な要因です。セルフサービスBIの利用で組織が節約を実現できる3つの領域は、次のとおりです。

  • まず、ライセンス費用です。使用量ベースのソリューションを使って効率的に構築されたモダンデータスタックで、使った分に対してだけ支払います。これまで、BIツールはユーザーライセンスに基づいていました。使用量ベースのツールに移行することで、未使用のライセンスに対する出費を防ぎ、使った分のみ支払います。

  • データチームに対する平凡なデータリクエストのバックログが減ることで、納期の短縮が可能になります。また、スキルも報酬も高い分析エンジニアが、事業価値を最大限に提供する計画に取り組め<br>ます。  

  • 「廃止任務」に取り組む際、セルフサービスBIの目標達成の役に立たない、冗長な従来型のビジネスインテリジェンスツールは、費用節約の対象です。ライセンス費用の節約だけでなく、生産性の低下を防ぎ、継続的なメンテナンスを止めて、サポート費用を節約できます。 

これまでの懸念点:新技術の統合・確立には、追加費用が必要になることがあります。また、セルフサービスBIの価値実現までの時間に遅れが生じることがあります。

インサイトの入手と対応をスピードアップ

未来主義者のJim Carroll氏が「未来はすばやい人の手にゆだねられている」と宣言したとき、先進的な企業の経営陣やデータ業務のリーダーたちは、彼が正しいとわかっていました。市場も業界も変化していて、これまでにない速さで市場原理に反応しています。たとえば、パンデミックによりサプライチェーンに混乱が生じ、自動車金融業界が不確実な状況に陥った際に、すばやく中古車市場に舵を切った自動車ローン業者、卸売業者、ディーラーは、出遅れた人たちがチャンスを逃している間に収入を増やし、利益を伸ばしました。この事例は、次に挙げるセルフサービスBIの2つの主な利点を説明しています。

  • 技術系ではないビジネスユーザーが自分ですばやくインサイトを入手し、対応できる。

  • ビジネスユーザーが、顧客に対してより多くの価値を提供できる。

これまでの懸念点:ユーザーがデータを完全に理解していない、またはデータから推論する方法を知らないことがあります。

セルフサービスBIの機能を構築する際に考慮すべきこと 

セルフサービスBIの大きな利点を確認して、利用を開始する準備が整いま<br>した。効果的なセルフサービスBIのプログラムを用意するには、次の3つ<br>を実行してください。

大きく考え、小さく始め、すばやく拡大

Jim Carroll氏の言葉を先ほど紹介しましたが、まさしくそのとおりです。組織の将来については大きく考えましょう。これは不可欠です。そして、ささやかな成功と事業価値を生むユースケースを選び出して、小規模に始めましょう。これによって、勢いが生まれます。こうしたささやかな成功を組織全体で共有して、すばやく拡大しましょう。 

企業の経営陣は競争を好みます。これは人間の本性です。誰もが顧客と従業員のために最高のものを手に入れたいと考えています。ですから、セルフサービスBIを使って同僚が成功を収める様子を目にすることで、組織全体でBIの採用率が上がり、資金の増加を促すのです。ビジネスユーザーは、セルフサービスBIがプロセスに収まることを最初から理解しているかもしれませんが、同僚の成功を目の当たりにすることは、ユーザーのモチベーションアップの大きな要因となります。 

データドリブンなセルフサービスBI文化の構築は文化的な変化

皆さんの組織は徹底したデータドリブン文化を背景にしているかもしれませんが、ほとんどの組織は違います。データドリブン文化の構築はどのようなセルフサービスBI機能にも不可欠です。構築には改善への意図的な努力、分析専門家、上級幹部からの支援などが必要です。NewVantage Partnersによると、92%の組織が「データドリブンになるための主な課題」は人、事業プロセス、文化に左右されるとし、8%のみが技術と回答しました。 

セルフサービスBIプログラムを成功させるには、データリテラシーとイネーブルメントプログラムの構築を検討してください。定期的にスケジュールされた「オフィスアワー」は、問題を解決したり信頼関係を築いたりする、広く知られた場です。ゲーミフィケーションも一般的で、「私はこれを構築しました」と説明するユーザー主導のプレゼンテーションがあります。また、「最初のLiveboard」や「10番目のインサイト」を生成する、回答数とLiveboard数でリーダーボードに上位掲載されるなど、マイルストーンごとに授与される賞やバッジもあります。こうした方法はどれも組織内で信頼感や助け合いの精神をはぐくみ、コミュニティを形成するのに役立ちます。

データの効率的な制御・モデル化に向けて、データ管理の方式を向上させる

これからのアナリストは、終わりのない作業サイクルに翻弄されていたアナリストとは少し違います。アナリストは今後、分析データとデータモデルを最適化して、セルフサービスBIと事業のスケーラビリティを向上させます。平凡な分析ではなく、やりがいのある分析に注力します。アナリストが必要とするツールやスキルの多くは変わりませんが、拡張性の向上やセルフサービスBIの実現に向けた最適化という、新たなスキルが加わります。

セルフサービスBIの可能性を最大限に活用するために、アナリストは、アドホックなレポートや使えないダッシュボードではなく、より大きな領域に関する問いに答えを出せるデータモデルを作成する必要があります。セルフサービスBIのデータモデルを使うと、既存のガバナンス、セキュリティ、ビジネスロジックに合わせて、技術系ではないビジネスユーザーが適切なデータを入手して正しい決定を下せるようになります。

セルフサービスBIは作り話ではなく、モダンデータスタックを採用する組織が導入できるものです。セルフサービスBIの実現は可能であり、価値のあるものが何でもそうであるように、計画を立て、組織化し、プロセスを確立するに値します。BIの機能は、技術よりもユーザーやプロセスに大きく左右されます。しかし、データエクスペリエンスレイヤーの技術が拡大されたインテリジェンスや、検索ベースの分析、AIドリブンのインサイトに対応していない場合、上記の利点を得ることは難しいでしょう。   BI機能のユーザーとプロセスの構成要素に関しては、組織でデータドリブン文化の構築に注力しつつデータを効率的に管理してモデル化すると、事業部門内で拡張できることを覚えておいてください。

今後、皆さんや皆さんのチームが終わりのない作業サイクルに陥ってしまっても、サイクルを破ることは可能なので安心してください。そして、事業のステークホルダーには解決方法があることを伝えましょう。