想像してみましょう。あなたは、高級焼き菓子のオンライン販売で成長著しい企業のオーナーです。ココナッツ風味のチョコチップマカデミアナッツクッキーが大ヒットしているのに対し、ピーナッツバタークッキーの売上は減少しています。ピーナッツバタークッキーはチョコレートチップ、マカデミアナッツ、ココナッツクッキーよりも製造コストが低いため、利益に影響する事態といえます。あなたはピーナッツバタークッキーの売上を伸ばすため、ロイヤルカスタマーに特別クーポンを提供することにしました。2週間後、分析プラットフォームでKPIアラートが届きます。この取り組みが大成功し、ピーナッツバタークッキーの売上が2桁増加したのです。クーポンが功を奏し、あなたの決断は少なくとも現時点では正しかったことになります。このプロモーションが今後も効果的かどうかを確認する必要があるため、顧客セグメント、地域、週ごとにトレンドラインとプロモーションの日付が明確に紐づいて表示されるLiveboardを注視します。
以上がディシジョンインテリジェンスであり、インサイトから行動、その行動の影響評価へとデータを活用する理想的なプロセスです。
ディシジョンインテリジェンスとビジネスインテリジェンス
ディシジョンインテリジェンスとは、意思決定ポイントを収集し、その意思決定ポイントにデータと人間の判断を適用して、その意思決定の影響を監視するプロセスです。
Gartnerは、ディシジョンインテリジェンスを 「意思決定の方法、結果の評価、管理、フィードバックによる改善方法を明確に理解し、設計することによって、意思決定を改善するために用いられる実用的なフレームワーク」と定義しています。
1980年代を振り返ると、メインフレームベースのダッシュボードは意思決定支援システム(DSS)と呼ばれていました。1990年代にリレーショナルデータベースとクライアントサーバーテクノロジーが台頭すると、このカテゴリーはビジネスインテリジェンス(BI)に名を変え、テクノロジーの変化だけでなく、意思決定者がレポートを操作したり、独自のクエリーを実行したりできる程度を表すようになりました。
業界を取り巻くイノベーションのうねりの中で、どの分析資産が固有の意思決定をサポートするか把握するという概念は、主に手動プロセスによって具現化されてきました。例えば、マーケティング担当者が「キャンペーン効果」というLiveboardを作成している場合でも、キャンペーン固有の意思決定は、せいぜいメモタイルにしか表示されないでしょう。意思決定が完全な自動化と監査によって特定のビジネス成果に結び付くケースは、BIとビジネス分析の分野ではほとんど見られません。
一方、機械学習と機械学習(ML)モデルの運用化により、このような意思決定は明確かつ整然と文書化されます。
クレジットスコアが700点以上なら融資を承認し、700点未満なら融資を断る。
ビジネス分析を専攻し一定のGPAを満たす候補者とは面接し、キャリアギャップがあれば却下する。
ショッピングカートの金額が100ドル以上で、顧客がロイヤリティプログラムに参加している場合、決済時にクーポンをウェブサイト上に表示する。
多様な意思決定
誰が、どのようなタイプの意思決定を行うかは、MLモデルや探索的分析によってどの程度意思決定を自動化できるかという事とも相関しています。Neil Raden氏とJames Taylor氏は、著書『Smart Enough Systems』の中で、価値や量という観点から意思決定のタイプを考える有用なモデルを提示しています。
ミクロな意思決定と1回限りの意思決定
ミクロな意思決定とは、現場の従業員が通常行う、価値は低いが頻度の高い意思決定のことです。クーポンの提供や移行の推奨は自動化することができます。一方、新規市場に参入する、あるいはオンラインベーカリーを実店舗に拡張するなどの決定は1回限りの意思決定であり、質問と回答を自動化することはできません。どこに進出するか? 単独店舗かコンビニエンスストアでの販売か? といったより多くのイテレーションや人によるやり取りが必要です。
現場の従業員がデシジョンインテリジェンスを活用できるようにする
架空のベーカリーストアの例では、オーナーが意思決定者であるため、クーポンの提供や誰にクーポンを提供するかを決定する権限は明確にオーナーにあります。
これが、クレームを寄せた顧客に対応するカスタマーサービス担当者であればどうでしょうか。この担当者は、注文の問題点や、顧客が過去に何度注文しているのか、データを把握することができるでしょうか。場合によっては、こうした点をすべてLiveboardでまず確認し、詳細を調査する必要があります。「なるほど、お客様の町では天気が荒れていたので、注文に遅延が生じたようです。特別な理由で注文されたのですね。お客様はロイヤルカスタマーでいらっしゃるようなので、返金するか、次回注文時に割引きさせていただきたいと思います。どちらをご希望ですか?」といった対応が考えられます。
この例の担当者には、天候による遅れについて店に責任がないことは明らかであるにもかかわらず、注文の問題を補償する権限が与えられています。注文の遅延理由が何であれ、顧客満足度を大切にするという文化がその理由です。担当者が問題を調査し、この特定の顧客を理解するためには、詳細なデータにアクセスし、そのデータが完全であることを信頼できる必要があります。ロイヤリティに関するデータが不完全だったら? クレームを寄せた顧客が、システム上では一度しか利用したことのないように見えても、実際にはトップ10に入る顧客だったとしたらどうなるでしょうか? データに対する信頼の欠如は、顧客対応などを行う現場の意思決定者が、より厳格なルールベースの意思決定をデフォルトとする理由の一つです。
真のデシジョンインテリジェンスシステムであれば、このようなミクロな意思決定の影響を追跡し、顧客が実際にロイヤルカスタマーかどうかを確認することができます。また、顧客セグメントレベルだけでなく、顧客レベルでの非常に詳細な分析も可能です。従来であれば、オンプレミスのデータプラットフォームでは拡張性やインサイトの粒度の点で限界がありましたが、柔軟なクラウドデータプラットフォームによって、より詳細な分析が可能になりました。
企業におけるデシジョンインテリジェンステクノロジーの実用化状況
デシジョンインテリジェンスという概念は何十年も前から存在していましたが、テクノロジーとしては、ルールベースや運用化されたMLを超えたものになるには歴史的な障壁がありました。2023年を迎えた今、デシジョンインテリジェンスはデモウェア以上のものになっています。一方、Gartnerが2022年のトップトレンドにデシジョンインテリジェンスを挙げて以来、一部のベンダーは、このハイプサイクルに乗るため、基本的な機能を実際には変えないまま自社プラットフォームをリブランディングしました。そのほとんどは意思決定フローを収集していません。
CloverpopやDiwo.aiといった新たなプレーヤーにより、組織は意思決定フローをモデル化し、AIを運用することができます。Diwo.aiは、AI生成インサイトに基づく推奨アクションを備えています。ほかにもAeraなどは、サプライチェーンの最適化といった特定のプロセスフローに焦点を当てています。
MLを活用した自動分析プラットフォームとしてスタートしたSisuは、新たにKPIの最適化に焦点を当てたデシジョンインテリジェンスとして自社プラットフォームを位置づけています。従来のBIベンダーであるPyramid Analyticsは、デシジョンインテリジェンスとしてリブランディングしましたが、その機能は探索的分析のカテゴリーにとどまっています。ThoughtSpotは、変わらずAIを活用した分析プラットフォームに位置づけられていますが、MLモデルとの統合だけでなく、インサイトを行動につなげる機能も数多く備えています。意思決定ポイントはプラットフォームでネイティブに収集されませんが、Liveboardのメモタイルに含めることができます。
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デシジョンインテリジェンスは、より多くのデータと最新のクラウドエコシステムを通じて人間によるインサイトと技術的進歩が最適な形で融合したことでより賢くなり、戦略的意思決定と業務的意思決定の両方に対応できるようになりました。
次の表は、テクノロジーがどのように発展したかを示しています。
デシジョンインテリジェンスプラットフォームを評価する際のポイント
ビジネスインテリジェンスとデシジョンインテリジェンスの違いについて触れましたが、選択肢を評価する際には次の点を考慮する必要があります。
対象ソリューションで、意思決定ポイントやその根拠の収集ではなく分析がどの程度提供されるか。マーケティングの誇大宣伝に注意すること。
意思決定者が分析プラットフォーム内からどの程度アクションを実行できるか。
表に記載されているとおり、プラットフォームがどの程度最新化されているか。
意思決定のタイプが、高価値/低頻度の戦略的意思決定か、あるいは低価値/高頻度の業務的意思決定(ミクロな意思決定)か。
デシジョンインテリジェンスのベストプラクティス
ベーカリーの例に戻りましょう。オーナーはピーナッツバタークッキーキャンペーンの成果と利益率改善に感激し、厳選した市場の高級コーヒーショップを通じてこのクッキーの販路を拡大することを検討しています。分析リーダーと同様に、オーナーはこの意思決定にデータを活用するでしょう。オーナーは、状況によって意思決定ポイントの日付をスライド、戦略文書、または意思決定プラットフォームに書き込む場合もあればそうしない場合もあるでしょう。純粋に組織のナレッジの一部になるものもあるかもしれません。
デシジョンインテリジェンスを組織に導入する際には、以下のベストプラクティスを考慮する必要があります。
ビジネス成果を向上させるために、データに基づいた意思決定を取り入れる。
意思決定を行う頻度、価値、人の違いを理解し、その違いに合わせてテクノロジーの機能を調整する。
消費者の責任として、テクノロジープロバイダーが意思決定をサポートする分析を提供しているのか、それとも意思決定を運用化する真のプラットフォームを提供しているのかを把握する。