好奇心を育むデータスタックの設計方法

「私には特別な才能などありません。ただものすごく好奇心が強いだけです」— アルベルト・アインシュタイン

分析ツールを好奇心のために最適化することを最後に考えたのはいつでしょうか?もし世界のすべてのデータと分析に私たちの好奇心が結び付けられていなければ、そこにどのような価値があるでしょうか。

データスタックに関して何が重要であるかと企業に尋ねると、クラウドへの移行、データのクリーンアップ、ダッシュボードの作成、経営陣の事業運営を支援するためのレポート、セキュリティー、ガバナンスといった回答が返ってくることが大半です。「好奇心を育むこと」という回答が上位に入ることはほとんどありません。その理由について考えてみると、一般的に好奇心を育むことが自分の仕事であると考える人がいないからでしょう。間違いなく、多くのリーダーたちはデータ戦略がビジネスにとって最も重要なツールの1つであると考えています。それならなぜ、好奇心が検討事項として浮上してこないのでしょうか。恐らく、意欲や野心と同じように、好奇心はあって然るべきものと考えられているからでしょう。 

その前提は、ある程度は当たっています。私たちは皆、生まれながらにして好奇心を持っています。5歳児は1日に約300もの質問をします。しかし、何らかの理由で質問の数が減っていきます。大人になると、新たな発見につながるような疑問があっても、めったに質問しなくなります。ほとんどのナレッジワーカーやリーダーは、好奇心を絶やさずに新しいデータを進んで取り入れる人物になりたいと切望するものですが、文化的にも技術的にも、好奇心は十分に配慮されていません。

これまでに発明、発見、改良されたものは、ほぼ例外なく好奇心がその発端となっています。好奇心そのものを数値で表すことは難しいものですが、好奇心がビジネス成果に結びつくことを示す例は数多くあります。

  1. セントジュード小児研究病院は、子供の健康に取り組む米国の大手慈善団体です。この病院では、資金調達チームに自分たちの好奇心に従って資金調達データを調べさせたところ、他のどの場所よりもWhole Foodsストアの半径2マイル以内でのイベントが資金調達に大きく貢献する傾向があることがわかりました。

  2. オーストラリアの保険金融業界のある大手企業が、ビジネスユーザー向けにセルフサービス分析を導入したところ、これまでになかったような質問が多く出てくるようになりました。その中でも、保険金請求データに関する質問によって異常な請求が判明し、セルフサービス分析を導入してからわずか数か月で3,000万ドルもの節約効果がありました。

  3. カナダのある投資ファンドでは、自社のトレーダーがデータに関する独自の質問をできるようにしました。その結果、あるトレーダーは1時間にも満たないトレーニングを受けただけで、別の銀行から数百万ドルもの貸し証券の過剰請求があることを発見しました。

  4. 米国のある大手テクノロジー企業では、経理担当者がデータに関する質問を自由にできるようにしました。その数日後には、出張規定の誤用が数百万ドルの損失につながっていることが判明しました。 

これらはほんの一例に過ぎませんが、データに関する好奇心を育むことがビジネス成果の大幅な向上につながる可能性があることをご理解いただけたと願います。  

では、データと分析という文脈で好奇心を育むためには何ができるでしょうか。この文脈から少し外れますが、『Atomic Habits』の著者であるJames Clear氏の言葉を引用すると、「目標のレベルを上げるのではなく、そこに至る手段を大切にすることです」。つまり、好奇心を育むという点で最良の手段となるのは、適切なデータスタックを導入することです。そこで、好奇心を育むデータスタックを構築する方法を紹介します。

  1. 好奇心を否定するのではなく肯定する:たとえば、コロナ禍の中で大規模な小売チェーンの在庫を管理しているとします。ある週はスポーツ自転車についての問い合わせが殺到しました。次の週はトイレットペーパーを買いだめする顧客が増えました。その次の週は、殺菌剤が飛ぶように売れました。そうなると、次はどの商品の需要が高くなるかが気になります。それがわかれば、翌週の在庫をできるだけ多く確保できます。ほとんどの在庫管理者にとって、この質問に対する答えを見つけるための最初のステップは、ダッシュボードを調べることです。

    しかし、データ管理が大規模であるため、データチームは取引データをSKUレベルやサブカテゴリーレベルで集計するのではなく、おおまかな商品カテゴリーレベルでの日次集計を行っています。つまり、きめ細かいデータを入手するには、データのプルリクエストを送信しなければなりませんが、そのリクエストは他のリクエストと一緒にキューに入れられるため、回答を得るまでに2週間以上待たされます。このリクエストによって有意義なインサイトを得られるかさえわからないので、誰もが必死になってデータを取得しようとしているときに、また1つリクエストを増やすのは気が引けるものです。

    一方、必要なデータが何であろうと、そのデータをドリルダウンしてGoogleのようなインターフェイスで質問し、即座にインサイトを得られるとしたらどうでしょう。どちらの方が、好奇心がより育まれるでしょうか。より良い結果につながるのはどちらでしょうか。Canadian Tireにとって、その選択に迷いはありませんでした

    「Canadian Tire Retailの第2四半期は、ほぼすべての期間を通して、一時的に店舗を閉めるか、約4割の店舗だけで営業しなければならないような状況でした。それでも、Canadian Tire Retailの売上は前年と比べて20%増を達成しています」

  2. 好奇心を持てるようにする:私たちが好奇心を抑えるのは、好奇心を求めることは推奨されないと感じることが理由の1つです。好奇心旺盛な子供は、大人を質問攻めにしたり何か危険なことをしたりしますが、たまりかねた大人は「好奇心もほどほどにしなさい」という言葉でよくたしなめます。子供のためを思っての言葉ではありますが、そのうち子供は好奇心を持っても無駄だと感じて質問しなくなります。企業でこの言葉に相当するのは、「皆が質問できるようにすると、それぞれ誤った結論や偏った結論に至ってしまう」、「皆が自分のカスタムデータを持つようになると、誰もデータを信用できなくなる」です。

    こうした懸念は、古い世代の分析スタックでは妥当なものでした。誰もが独自のデータをExcelにダンプして、それぞれ異なるフィルターを使用し、異なる指標を定義していたのです。「Excel地獄」という言葉まで生まれたほどでした。分析ツールで数百万を超える行を処理できない場合は、Tableauデータ抽出とPowerBIレポートで処理しなければならなかったため、これらを厳格に管理することが非常に重要でした。

    しかし最新のデータスタックでは、クラウドデータウェアハウスにきめ細かい形でデータを保管し、一元化された場所で指標を定義して、誰にでも独自の分析を行わせることができます。この場合、正しい答えが複数あるとしても、それほど心配する必要はありません。適切なスタックであれば、集計の粒度を固定することなく、きめ細かいセキュリティーと一元化された定義の両方を簡単に実現できます。

  3. 関連する情報で好奇心を引き出す:YouTubeで動画を視聴していて、その1時間後にはピアノで遊ぶ猫に見とれているといった経験があると思います。それほど頻繁ではないにせよ、Wikipediaの記事に夢中になって、お気に入りの作者( G. Wodehouse)のページを読みふけり、その1時間後にはさまざまな種類のコーヒーに関するページを読んでいることもあります(どうしても知りたいという方のために説明すると、私が調べたのは「ウースター家の掟(Code of Wooseters)」->「カウクリーマー(Cow Creamer)」->「エスプレッソベースの飲み物(Espresso based drinks)」という順です)。ある概念を調べているときは、それに関連するすべての概念に自然と興味が湧くものです。その文脈の中で関連する情報に簡単にアクセスできれば、当然、好奇心は解き放たれます。分析スタックにこの仕組みを組み込む方法はいくつもあります。データのビジュアライゼーションで、関連する分析へのリンクがハードコーディングされることはよくあります。ThoughtSpotでは、特定のデータモデルで考えられるどの方向にでもドリルダウンできます。また、データ探索機能には機械学習が使われていて、その文脈で次に関連性の高いデータに関する質問を収集し、ユーザーに合わせてパーソナライズしたうえで、ワンクリックでアクセスできるようになっています。

  4. 好奇心を社会現象にする: 私たちは社会的な存在です(程度は人によって異なりますが)。友人や尊敬する人が何か面白いものを見ていると、自分も好奇心を持ってしまうものです。このような理由で、特定の質問に対する回答やLiveboardを他に誰が閲覧したかを分かるようにしたところ、分析への関与が大幅に深まりました。また、アクティビティーとコメントのソーシャルフィードを使用するのも1つのアイデアです。好奇心を喚起すためによくこの方法を使っています。

  5. 知識のギャップを明らかにする:知らないことをからかわれて好奇心が強く刺激されると、私たちはその好奇心によって支配されてしまうことがよくあります。スマートフォンに表示されるわずらわしい通知を無視するのが簡単なことではなかったり、「知っていましたか...」で会話を始めると、いとも簡単に相手の注意を引くことができるのは、そのためです。

ThoughtSpotは現在、自動ビジネスモニタリングという機能の開発に取り組んでいます。この機能は、ユーザーに代わって機械学習アルゴリズムが指標を常に観察し、ユーザーが関心を持つどのディメンションでも、予期しない動作の指標があった場合は、さらに深く探るようユーザーを誘導します。

おわりに

以上のアイデアは、ツールと組織の行動変容に大きな責任を課しますが、好奇心を持ち続けられるかどうかは、最終的には私たち一人ひとりにかかっています。好奇心を持ち続けるということは、自己の存在を十分に示し、知らないとき(または誤っているとき)はそのことを快く認め、意見が合わない相手とも話をするということです。それは簡単にできることではありませんが、今すぐにでも、そして長期的にも最もやりがいがあることです。

認知神経科学者Matthias Gruber氏がこちらの講演で話されたことを紹介すると、被験者に豆知識に関する質問をして好奇心を刺激した後、fMRIで脳を調査したところ、おやつなどのご褒美を楽しみにしている人の脳によく似ていたそうです。これはまさに理にかなっていると思います。質問をして新しいインサイトを発見することほど楽しいことはありませんから。