事実に基づく世界:それは実現できないのか

ビジネスインテリジェンスの市場が出現してから30年が経過しました。ビジネスリーダーは誰でも、自社組織をデータドリブンにしたいと言っていますが、実際にデータドリブンであると自信をもって言えるのはその3分の1に過ぎません。

30年が経過した今、私はこの件について悲観的で、われわれは失敗したと考えています。それとも楽観的に考えれば、私達は苦難の多い道を、ゆっくりとではあるけれども前進していると言えるかもしれません。

新型コロナウイルスによる危機は、健康面と経済面の双方から見て過酷なものですが、同時にこの危機が、データと分析がついにブレークする様子を示す、強制的な機能を持つことが明らかになってきています。

業界のこのブレークのチャンスは、最前線の社員が、一番影響を受ける場所で、データに簡単にアクセスする能力がどの程度与えられているかにかかっていると私は考えています。またデータの価値の解放を妨げる障害物、特に文化を、リーダーたちがどれほどコントロールできるかにもかかっています。

だからこそ、ThoughtSpotが作成に協力したHarvard Business Review (HBR) Analytic Servicesのレポート、『The New Decision Makers(新たな意思決定者)』の調査結果は、変革を心から望むビジネスリーダーと社員にとって非常に重要なものなのです。 

 

現場の最前線の社員に能力を与えることと、ビジネスパフォーマンスの間に、直接的なつながりが実際に存在することをこのレポートは示しています。

  • この最新のHBRレポートで調査回答者の87%が、最前線の社員に能力を与えることで、組織がより大きな成功を収められるだろうと回答しました。

  • 69%は顧客満足度を向上させました。

  • 67%は製品とサービスの品質を向上させました。

これはすばらしい、計測可能なメリットです。それでもまだ最前線の社員にデータを利用する能力を与えることの価値や可能性を信じていない組織があります。HBRがこのような組織を「出遅れたグループ」と呼ぶのも不思議ではありません。

しかし公正に考えてみると、もしかするとこのような出遅れた組織は、文化や技術にかかわる課題が大きすぎて、克服できないと考えているのかもしれません。Deloitteによる調査では、組織の67%がデータにアクセスできないか、データへのアクセスが容易ではないと言っています。

ここまでに来るのに時間はかかりましたが、データと分析が最前線の社員にパワーをもたらす瞬間がついに来たと私は考えています。

  • 私は13年前に、「あらゆる人のためのBI」というMicrosoft社のスローガンについての記事を書きました。MicrosoftはBIユーザーが10倍に増加すると想定しましたが、これはまだ現実になっていません。

  • 5年前に私たちは、視覚的なデータ検出により、データアナリストがいかにより多くの仕事をよりスピーディーにできるようになるかを目の当たりにしました。これは、分析とBIの導入率が22%から35%に伸びた理由の1つです(2019年のGartnerのマジッククアドラント顧客参照用調査による)。 

  • 今ではアナリストではなくても、検索とAIを利用すれば、モバイルアプリや埋め込み機能を通じて、場所や時間に制限されずにデータにアクセスできるようになりました。データの拡張性の向上とクラウドの敏速性により、最前線の社員にとって特に重要な、より詳細なインサイトを得ることが可能になったのです。 

去年、世界各地への出張の中で私はお客様と話し合ってきました。データドリブンの組織を、特に最前線の社員のために作り上げる上で、何が役立っていて、何がうまくいっていないかを。多くのお客様が挙げた要素のトップ3は文化、データフルエンシー、そして人材のギャップで、これはHBRレポートでも確認されました

文化を打ち破れ

文化はなかなか変えにくいものですが、最前線の社員に能力を与えるために不可欠な要素です。直感と経験に基づいた意思決定は、肌寒い日の毛布のように心地よい物です。どうしてそれを変える必要があるのでしょうか。

現状を維持することは、現実に立ち向かうよりもずっと簡単で安全です。その現実とは、デジタルの世界において、顧客を本当に知る唯一の方法はデータであるということ。2020年に入ってまだほんの5か月ですが、主要企業が多くの新しいCEO、CIO、CDOを迎えていることには驚かされます。文化を変えるには、組織はリーダーシップを変化させ、破壊者、変化をもたらす者を取り入れる必要があるからかもしれません。困難な経済状況の中で、当然のことながら人々は失業を恐れています。特定の方法でデータを処理して、または特定の技術によってキャリアを築いてきたデータや分析の専門家は、現状維持に特に固執しているかもしれません。しかし、今後さらに悪化すると考えられるこの厳しい経済状況により、人々がさらに賢く、迅速に、最大の効率で作業することが求められるでしょう。

ベライゾン社のビジネス分析担当シニアバイスプレジデントであるJeff Noto氏は、最近のウェビナーで、次のように述べています。「分析業界のリーダーの皆さんにとって、今が最大のチャンスです。すばやく動けば動くほど、データドリブンの導入を推進する位置に立つことができます」。またこれは、データの価値を引き出す方法を知りながら、周囲に耳を貸してもらえず、十分な予算を与えられずにいたデータや分析の専門家、または過去の権力や社内政治、そして優先事項の衝突によって主力から外されてきた専門家についても同様です。今がまさに皆さんの時です。この非常に厳しい経済環境を耐え抜くため、データと分析の導入をぜひ主導してください。リーダーや利害関係者に、データや分析を導入するために何か必要か、容赦なく真実を伝えてください。 

データフルエンシーを高めよ

私たちは今、目の前にあるデータギャップをほとんど理解できていない世界で、グローバルなパンデミックの真っ只中にいます。アメリカの4月末時点での感染者総数は500万と推定されていることを、データの専門家は焦燥感を募らせつつも理解していますが、データ専門家でなければ、ラボで確認された数が100万であれば、アメリカの感染者数は100万のみであると誤って解釈してしまいます。国ごとにデータの品質や信頼性が異なるため、世界規模での感染者数を推定するのは不可能です。賢い市民や政策立案者がこのデータギャップをほとんど理解することができなければ、企業データを理解することが容易ではないのは当然でしょう。

データと分析の業界が、ツールと技術のトレーニングに時間をかけすぎており(68%)、インサイトの適用には十分な時間をかけていない(46%のみ)ことに、私は落胆を覚えています。

しかし明るいニュースもあります。欧州のカスタマーロイヤリティプログラムであるPaybackは、すばらしいことにこの比率を逆転し、ツールのトレーニングを20%に、データの活用を80%にしました。

VMWareのCDOであるStephen Harris氏は、『The Data Chief Podcast(データチーフポッドキャスト)』で次のように説明しています。「私は、自分のデータリテラシーが90%であることを実感し始めました。一方、他の人々のデータリテラシーや、どのようにデータがシステムで変換されて、消費者の手元に届いて利用されるかなど、データの理解にかかわる実践のレベルは、両極端の位置にあることも知りました。ですから私の仕事は、私がしゃべるよりも学び耳を傾けること、また教育し、情報を伝え、データ活用の過程をガイドすることでした。そして私は効率を上げるために常に調整する必要がありました」。Bain社によると、いまや組織の63%にCDOがいますが、CDOが組織理念にデータフルエンシーを加えることを私は願っています。データと分析のリーダーは、肩書を問わず、すでに重い役割を担っていますが、データフルエンシーは新たに加わる責任となります。 

人材ギャップを再考せよ

業界では頻繁にデータと分析における人材ギャップの話題が持ち上がります。この分野では数多くの職位が空いたままで、AI業務における空きポジションの急増を見ると、人材ギャップは悪化していることが分かります。IDCによると、このパンデミックにより世界的にデータエンジニアとAI専門家の需要が高まることが予想されています。しかしCNA Insurance社のCOO、Michael Costonis氏は、「私たちが抱えているのは人材ギャップではありません。イマジネーションのギャップです」と反論しています。

このディスカッションについて考えれば考えるほど、私は同感の意を強くしています。特に、最前線の社員のためのデータ活用についてです。

人々は、ダッシュボードと注文を受けること、1つの注文を作成するために長いモデリングプロセスを経ることにすっかり慣れ切っているため、一般に検索とAIに対して恐怖を抱いています。次のような反対意見があります。

  • 私達の仕事がなくなる。

  • ユーザーが誤った結果を受け取ってしまう。

  • また、長年にわたってBIマネージャーを務めてきたAhmed Yusuf氏は、このLinkedInの投稿で、「(ThoughtSpotのテクノロジーは)BIプロジェクト開発サイクルを最低でも40%短縮する可能性がある。つまり、ThoughtSpotはBI産業に脅威を与えている」と言っています。

一部の人々は、より優れた、新しい俊敏な別の方法があることに気付いてさえいないかもしれません。最前線の社員にデータを提供できれば、どんなことが可能になるか想像してみてください。

  • ウェイターが、人気のあるチョコレートケーキが売り切れた場合に、別のデザートを勧めることができる。

  • ファイナンシャルアドバイザーが、顧客の給与支払いの振込みが突然ストップしたのを見て、顧客がコールセンターに電話をする前に、先を見越して最小限の支払いプランを勧めることができる。

  • Zoomミーティング中に常に邪魔が入る様子から、トップレベルの女性社員たちが離職するだろうというアラートをマネージャーが受けることができる。

  • 新型コロナウイルスの患者に対するある種の治療方法が、現在自身の病院で標準治療となっている方法よりも良い結果を出していることを看護師が知ることができる。

このような高い価値を持つユースケースが今では技術的に可能です。それにもかかわらず、このようなユースケースを想像する人はほとんどいません。最前線の社員はそのような機能を求めません。それが可能であることを知らないからです。最前線の社員がデータを利用できるようにするには、リーダーやデータと分析の専門家から、最前線の社員自身にいたるまで、すべての役割において、これまで以上の協力とイマジネーションが必要とされます。

私は『Successful Business Intelligence Books』(ビジネスインテリジェンスの成功のための本)の2008年版と2013年版の両方で、以下のように書きました。

ビジネスインテリジェンスで成功を収めるには、BIを全社員に導入するだけでなく、組織の境界線を越えて、顧客やサプライヤーにも導入することを検討する必要があります。

事実に基づく世界というThoughtSpotの使命と比べると、私のビジョンは小さなものに思えます。私はただ各組織がBIを導入することを願っていただけですが、BIを世界中に拡大することができたら一体どんなことが可能になるか、ぜひ想像してみてください。